あれ、この前と話が違ってない? 視聴者も首をかしげずにはいられなかったようだ。
5月25日放送のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」第33回では、ヒロインの比嘉暢子(黒島結菜)を追って上京した幼馴染の智(前田公輝)が、胸に秘めた思いを明かそうとする場面が描かれた。
銀座のイタリア料理店「アッラ・フォンターナ」に雇われた暢子は、オーナーの大城房子(原田美枝子)に対して“ペペロンチーノ対決”を挑むことに。勝てば午後の賄いを作らせてもらえるが、負けたらクビという大勝負だ。その対決に向け、これまで一度も作ったことのなかったペペロンチーノを、下宿先である横浜・鶴見の沖縄料理店「あまゆ」の厨房で何度も何度も試作していた。
厨房では上京したばかりの智が、住み込みで働いている食品卸の店が休みとのことで、暢子が調理する様子を見守っていた。なんでもその食品卸店では「アッラ・フォンターナ」にも食材を卸しており、いずれは配達に行くこともありそうだという。
しかしそれは偶然ではなく、智の策略だった。彼は「実際はよ、フォンターナに出入りしている業者を調べて、そこに雇ってもらったわけさ」との裏話を告白。その理由として「つまり俺は、いますぐとは言わないけど…」と言いかけ、暢子と交際したい気持ちを打ち明けようとしていた。
すると暢子が「今だ!」と絶叫。その言葉に「い、い、いま!? でも暢子がいいなら」と相好を崩す智だったが、暢子はパスタを茹で上げるタイミングを計っていただけ。「合ってる? 茹で過ぎ?」と返していた暢子だったが、噛み合っていないのは二人の会話ではなく、物語の時系列との指摘が続出しているというのだ。
「智はアッラ・フォンターナに出入りしている業者を調べたとのことですが、彼にそんなことをしている余裕はなかったはず。というかそもそも、暢子が就職先を決める以前から、智は鶴見で働く店を決めていたのであり、時系列がまったく食い違っているのです」(テレビ誌ライター)
5月20日放送の第30回では、沖縄・山原村の比嘉家を訪れた智が、暢子の妹・歌子(上白石萌歌)に「いよいよ次は俺の番か」と打ち明ける場面があった。商売の修行をするならやはり大都会という智は、鶴見の先輩と手紙のやり取りをし、「仕事を紹介するって返事が来たよ」と明かしていたのである。
その日は、暢子がアッラ・フォンターナへの就職を決めた翌日だった。つまり智は、暢子がどこに勤めるのかも知らない段階で、鶴見の先輩に就職先を紹介してもらう約束を取り付けていたのである。
「普通に考えればこの時点で、智の就職先は“鶴見の先輩”が紹介できるところで決定しているはず。よもや智がそこから《アッラ・フォンターナに出入りしている業者》を調べあげ、そこに首尾よく住み込みで就職できたなんて都合の良い話があるでしょうか? しかも智は沖縄を出て大阪で一週間働き、そこから鶴見にたどり着いていたのですから、インターネットなど存在しない時代に業者のことを調べる手段などないはずです」(前出・テレビ誌ライター)
仮に、その“鶴見の先輩”が件の業者を調べ上げ、奇跡的に就職できたという都合の良い話だったとしても、その場合には就職先も決めずに智は沖縄を出たことになる。それはいくらなんでも向こう見ずというものだろう。
「制作側としては、智が暢子を想う心を演出するため《アッラ・フォンターナに出入りしている業者》に就職したことにしたかったのでしょう。しかしそれが時系列を無視することになるとは気づかなかったのか、はなはだ疑問です。もっともこの『ちむどんどん』では、比嘉家の借金問題をはじめとしてどうにも納得のいかない展開がテンコ盛り。ここは時系列など無視して、ひたすらに『暢子に恋する智と、その想いに気づかない暢子』のやり取りを楽しむのが吉なのかもしれません」(前出・テレビ誌ライター)
どうやら視聴者の側は「ちむどんどんの楽しみ方」を身に付ける必要があるようだ。