どうやら制作陣は結論ありきで、この人物を登場させたようだ。
5月30日放送のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」第36回では、ヒロインの比嘉暢子(黒島結菜)が東洋新聞社のボーヤ(雑用係)に出向させられるまでのいきさつが描かれた。
沖縄から上京し、銀座のイタリア料理店「アッラ・フォンターナ」で働くようになった暢子。上京から約1年半が経ち、前菜の一部を任されるようになるなど、料理人として少しステップアップしているようだ。
そんな暢子がなぜか、オーナーの大城房子(原田美枝子)から東洋新聞社で働くようにと言い渡されることになった。作中ではその流れに至るフラグが2つ立っていたという。
一つ目は大城オーナーが、西洋文化史を専門とする大学教授とイタリアの歴史について語り合っていたこと。その場にお茶を運んだ暢子が驚くと、二ツ橋シェフ(髙嶋政伸)はオーナーについて勉強熱心で幅広い見識を持ち、多くの学者と交流があると説明。そのうえで、フォンターナは一流の文化人や芸術家が集うサロンになっていると説明していた。
「しかし暢子がここで働くようになってからすでに1年半も経つのに、オーナーの幅広い交流については初めて知った様子。フォンターナが文化サロンになっているのであれば、学者や芸術家が集っていることに気づいていなかったのは、さすがに無理があります」(テレビ誌ライター)
まさかオーナー室にお茶を運ぶのが初めてだとは思えないが、それほど暢子は勘が鈍いということなのだろうか。そしてもう一つのフラグは、なんとも失礼なオジサンの登場だというのである。
ある日、フォンターナには演劇評論家の淀川晴夫と、東洋新聞の田良島デスクが来訪。新連載に向けての決起集会だという。暢子が前菜のタルタルステーキを運んできたところ、淀川は「この香ばしいヘーゼルナッツオイルは、ピエモンテかね?」と質問。しかし歴史や地理に無頓着な暢子は「美味しいですよお」としか答えられなかった。
さらに田良島の部下からピザを置いてないのかと問われると、暢子は「ウチもピザがあったほうがいいと思うんですけどね」と返答。すると淀川は「ピッツァなんかこの店で扱うわけがない!」と激昂し、壁に掛けてあるイタリアの地図を指して、パルマやナポリがどこにあるのかを暢子に問うたのである。
さらには「アッラ・フォンターナ」という店名の意味と由来を問いただし、まったく知らないという暢子に対して「よくぞ…それで」と吐き捨てたのであった。
「その騒動を聞きつけた大城オーナーは淀川に謝罪。教養のない暢子に東洋新聞の雑用係を命じました。しかし暢子はこの年、二十歳になったばかりの若者。見るからに若い女子ですし、淀川の態度は物知らずの若者にマウントを取っては悦に入るイヤなオヤジそのものです。時代がまだ昭和48年(1973年)ですから、まだパワハラなんて言葉もないころですが、新聞社から接待を受けるような大物評論家が二十歳の小娘を相手にマウントを取る姿は、あまりにみっともないと言わざるをえませんね」(前出・テレビ誌ライター)
視聴者からも、料理人志望の暢子がいきなり新聞社で働くことになるのは無理がありすぎるとの指摘が続出。その流れが、新聞記者になった青柳和彦(宮沢氷魚)と偶然に再会するためというのはもはや明らかだ。
その“再会”に向けたきっかけは、評論家がピザを巡って暢子にマウントを取ったことにあった。だからこそ第8週のタイトルは「再会のマルゲリータ」というワケか。まさか再会のネタに使われるとは、ピッツァのほうも驚いているのではないだろうか。