まあ、彼女ならそれくらい言うよね。視聴者も呆れ顔でそう思っていたことだろう。
9月5日放送のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」第106回では、ヒロインの青柳暢子(黒島結菜)があからさまな暴言を口に出す場面が話題を呼んだ。
沖縄出身の暢子は7年間の料理人修行を経て、東京・杉並に沖縄料理店の「ちむどんどん」を開店。当初は満席になることもあったものの、昭和54年の段階では「豚足」や「ミミガー」(豚の耳)といったメニューも気持ち悪がられるばかりだ。しまいには店にも閑古鳥が鳴くようになり、もはや従業員の給料も払えなくなりそうなところまで追い込まれていた。
フロア業務を担当する比嘉歌子(上白石萌歌)は実妹なうえに住み込みなのでまだいいとして、料理人の矢作とは給料が一日でも遅配したら、店を辞めるとの約束を取り交わしていた。その危機がいまや現実化しそうな状況だったのである。
「矢作から早めに閉店したほうが傷は浅くて済むと指摘された暢子は反発。ニラみつけるように『何があってもこのお店は閉めません』と言い返し、矢作から『結果が出せなきゃ潰れちゃうの』と諭されると『うちは矢作さんとは違います!』と、かつて自分の店を潰した経験を持つ矢作のことをなじったのです。この暴言には視聴者から《今までで一番最低のセリフ》《矢作のことを下に見ている証拠》との批判が続出。その一方では、暢子の暴言を通常運転とみなし、《名ゼリフ出た!》と茶化す向きも少なくありません」(テレビ誌ライター)
暢子の<自分がすべて>という態度はもはや、視聴者はお見通し済み。制作陣は意志が強くて自立した女性を描いているつもりかもしれないが、ほとんどの視聴者は暢子のことを、自分勝手で他人の心を推し量れない自己中心的な人物だとみなしているのである。
だが、キャラ設定上は天真爛漫で、周りを幸せにするパワーに満ちているという暢子。今回の騒動もおそらくは、東京に合わせていた味付けを本場・沖縄風に戻すことで解決するに違いなさそうだ。
その意味では独立開業に至ってもなお、自分のキャラを崩していない暢子。この調子で最終回まで突っ走ってくれるのは確実だろう。それに対して、暢子の店を手伝っている歌子に関しては、あまりにもキャラがブレブレだというのである。
「歌子は子供のころから身体が弱く、それが原因で高校卒業後に勤めた運送会社を辞めたり、一念発起して挑んだ歌手オーディションでも高熱を出して失格になっていました。さらには人見知りが激しく、民謡歌手になるとの夢を抱くも、せっかく用意してもらった沖縄居酒屋での歌唱披露はまともに歌うことができずに断念。ところが家族の勧めで上京してからは、そういった弱点がすっかり影をひそめてしまっているのです」(前出・テレビ誌ライター)
料理店のフロア担当となれば見知らぬ人とばかり接するわけで、人見知りにはとても務まらない仕事のはず。しかも一日中立ちっぱなしで、肉体的な負担も相当大きいものだ。ところが「ちむどんどん」開店から2カ月が経った今も、歌子が体調を崩したという描写は1秒たりとも出てこないのである。
第106回の冒頭では暢子と歌子が店の前で通行人にチラシを配布し、集客に精を出していた。これも人見知りにはとても務まらない仕事のはず。しかも季節は11月を迎え、二人は長袖のセーターやカーディガンを着るようになっていた。しかし2カ月前まで沖縄県在住だった歌子にとって、11月の東京はもはや真冬も同然ではないか。
観測記録上、沖縄本島では一度も雪が降ったことはなく、歌子も雪を見たことはないはず。昭和54年~58年の東京は積雪が少なかったもののゼロではなく、歌子もいずれは雪の日を体験することになることだろう。
「しかし間もなく出産を迎える暢子には、歌子の体調を気遣う余裕などありません。おまけに料理店を開いていればフロア担当の歌子が寝てばかりというわけにもいかず、物語的に歌子には元気でいてもらわないとならないワケです。どうやら『ちむどんどん』では主要キャラの設定でさえ、物語の展開に応じて自由自在に変えていける柔軟性を備えているようですね」(前出・テレビ誌ライター)
元気になったから上京できたのか、それとも上京したら元気になったのか。ともあれ歌子ファンにとっては幸いなキャラ変となっているのかもしれない。