【ちむどんどん】暢子が“源氏名”を知らないのは、おじさん制作陣が望む「無垢すぎるヒロイン像」の象徴か

 これまでの放送を見返してみれば、その設定に無理があることはさすがに分かりそうなものなのだが…。

 9月12日放送のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」第111回では、猪野養豚場の一人娘である清恵が、ヒロイン青柳暢子(黒島結菜)にとっての救世主になる予感を感じさせた。その清恵を巡り、暢子が意外すぎる疑問を口走っていたという。

 千葉の実家を飛び出し、東京・杉並のスナック「ヒットパレード」で住み込みの従業員として働いている清恵。世を忍ぶ仮の姿「リリィ」として、酔客の相手をする毎日を送っていた。それでも実家の養豚場で愛情をこめて育てた豚には自信があるようで、近所の肉屋に卸している皮付きの豚肉は自慢の逸品のようだ。

 ある日、暢子が営む沖縄料理店「ちむどんどん」を偶然訪れた清恵。沖縄料理の試食を頼まれ、味の感想を聞かれた彼女は、豚肉に問題ありと指摘する。その時、ちょうど皮付きの豚肉を買って来たばかりで、それを暢子にあげたのだった。

「暢子から名前を訊かれた際にはリリィと答えていた清恵。彼女が店を出たあとで、暢子は『リリィさんって外国の人じゃないよね?』と本気で疑問に思っている様子でした。料理人の矢作(井之脇海)が『何も知らねえんだな、源氏名』と説明しても、初めて聞いたとばかりに『げんじな?』と聞き返す暢子。その様子に、視聴者は首をひねっていたのです」(週刊誌記者)

 矢作から、水商売の人がお店で名乗る名前と説明されるも、あまりピンと来てない様子の暢子。それは妹の歌子(上白石萌歌)も同様だ。それでもリリィが水商売の店で働いていることは理解できたようで、リリィを追いかけようとする暢子に、歌子は「どこのお店で働いてるか分からないよね?」と声を掛けていたのだった。

清恵に譲ってもらった豚肉は、まさに暢子が求めていたものだった。トップ画像ともに©NHK

 しかし、沖縄やんばる地方から上京して二カ月あまりの歌子ならともかく、上京して7年も経つ暢子が「源氏名」という単語を知らないことなどありえないというのである。

「なにしろ暢子は銀座のレストランで働いていましたからね。しかも『アッラ・フォンターナ』では料理人も給仕をする方針のため、客と一緒に食事をする銀座のクラブ嬢を数多く接客してきたはず。そんな料理人生活を7年も送ってきた暢子が『源氏名』という単語を知らないことなど考えられません。それゆえ今回の描写は、本作の制作陣がこれまでの設定を自らないがしろにしているのも同然なのです」(前出・週刊誌記者)

 上京してきた時には田舎者丸出しだった暢子も、銀座で7年も働いていれば大人の世界をいろいろと垣間見るもの。高級レストランという接客業の従業員であればなおさらだろう。

 ところが本作の制作陣はわざと、暢子を世間知らずの若い女性として描いていた。それは彼らが「朝ドラヒロイン」に求める姿がそもそも、偏っているからではないだろうか。

「昭和生まれのおじさんたちが朝ドラヒロインに求めるのは、無垢すぎるほどに世間知らずであること。そして純粋なまま人間として成長していくことなのでしょう。そのような『聖なる存在』であることを求められるヒロインは、源氏名という俗世の専門用語など知っていてはいけないというワケです。とは言え令和の時代にそんな時代遅れのヒロインを描くのは、さすがに世間を見誤っている気がしますけどね」(前出・週刊誌記者)

 源氏名という単語を知らない暢子に違和感を抱かなかった視聴者は、果たしてどれくらいいるのか。おじさん世代の視聴者にぜひ訊いてみたいものだ。