【舞いあがれ!】なぜ「ばらもん凧」のエピソードが重要だったのか、そこには巧みな伏線が張られていた!

 ヒロインの祖母が五島に住んでいることは、それ自体が物語を貫く伏線となっていたのかもしれない。

 10月14日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第10回では、ヒロインの岩倉舞(浅田芭路)が五島名物である大凧の「ばらもん凧」を見事に飛ばすことに成功。その姿に舞の成長と健康回復を感じ取った祖母の祥子(高畑淳子)は、実家の東大阪に帰らせることを決心していた。

 本作は舞が空を飛ぶことに興味を持ち、パイロットを目指すという物語。そのきっかけとして大空を舞う凧を操作した今回のばらもん凧が、重要なエピソードとなることは納得だろう。それに加えて今回、祖母の祥子が舞に語り掛けた言葉に、重要な伏線となりそうなポイントが隠されていたというのである。

 大阪に帰ることが決まった舞に、祥子は「ばらもん凧ばぁ、あげたっ時んこと覚えとっか?」と質問。すると舞は目を輝かせながら「風がものすごい力で引っ張ってきてな、けど負けんとあげた」と打ち明けていた。

 すると祥子は「舞もばらもん凧ごたぁ、どがん向かい風にも負けんと、たくましく生きるとぞ」とアドバイス。そんな祖母に舞は「うん。ばんば、今までありがとう」と感謝の言葉を返していたのだった。

「ここで重要なのは『向かい風』という言葉です。幼いころから人一倍気を遣う性格も相まって、すぐに熱を出してしまいがちだった舞。彼女は様々なネガティブ要素を自分への向かい風だと捉え、抗えずに熱を出してしまっていたのでしょう。しかし飛行機や凧にとって、向かい風はなくてはならないもの。同じ向かい風でも受け止め方によっては自分を高めてくれる方向に働かせることができると、祥子は伝えたかったのではないでしょうか」(テレビ誌ライター)

 飛行機は翼に風を受けて揚力を生み出すことで、空に浮かぶことができる。そのため少しでも多く風の力を得るため、離陸時には向かい風に向かって滑走する必要がある。それはエンジン付きのジェット機であろうと、脚力でプロペラを回す人力飛行機であっても同じことだ。

 同様に凧も、風をはらみながら空に浮かぶもの。操作する者は風を背に受けるので、追い風で飛ぶものと勘違いされがちだが、凧ひもで引っ張られる凧にとっては向かい風を受けて飛んでいるのである。

「10月10日放送の第6回で舞は、友達になった浦一太(野原壱太)のばらもん凧を操作させてもらうことに。しかし不慣れな舞は凧が風にあおられた際に、一太から『舞、走らんか!』と指示されても足が動かず、墜落させてしまいました。この場面では凧が横から風を受けたことが墜落の原因。自分が風上方向に走ることで、相対的に凧を風下方向に向けることができれば、向かい風を受け続けることができたのです」(前出・テレビ誌ライター)

 このように凧の操縦者は常に風を読み、空に浮かんでいる凧を積極的に向かい風に当てるように仕向ける必要がある。それは、時には自ら苦難の道を進んでいく必要がある人生そのものを示唆しているようではないか。

まだばらもん凧を上手く操作できなかったころの舞。ここからの3カ月で彼女は大きく成長していた。トップ画像ともに©NHK

 第10回では大きなばらもん凧をあげることに成功していた舞。この時は風が強まったことで身体を持っていかれそうになっていたが、一太ら周りの協力者も凧ひもを引いてくれたことで、凧をあげ続けることができていた。その姿は人生の向かい風が強すぎる時には、周りの助けを得ると良いという人生訓さながらだろう。

「このように凧や飛行機の特性に思いを馳せれば馳せるほど、ばらもん凧のエピソードが舞の成長にとって不可欠だったことを実感します。気弱だった舞が4カ月の五島暮らしで見事にばらもん凧を操作できるようなった姿を見守った祖母の祥子が、もう大阪に戻って大丈夫だと決心したのも納得でしょう」(前出・テレビ誌ライター)

 いずれはパイロットになるであろう舞。彼女が空を飛ぶ姿に祥子は感心こそすれど、驚くことはないのかもしれない。