どうやらこの兄は、単なる口先だけの男ではなかったようだ。
10月26日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第18回では、岩倉家の長男で東京大学4年生の悠人(横山裕)が東大阪市の実家にふらっと里帰り。連絡が取れないことに心配していた両親に就職内定を報告した。
悠人は大手電機メーカーの「IMORI電機」に内定。ねじ工場を経営する父親の浩太(高橋克典)は「ええとこ決まったな!」と喜び、母親のめぐみ(永作博美)や妹でヒロインの舞(福原遥)も嬉しそうな表情だ。入社後について悠人が「きついんはイヤやな」とコボすと、浩太は「3年の辛抱や」と諭す。すると悠人は3年で会社を辞め、独立して投資家になると宣言したのだった。
「悠人は決して大風呂敷を広げたわけではありません。なんと彼は在学中に株式投資で2000万円を稼ぎだした学生投資家だったのです。悠人は入社後、辞めるまでの3年でその2000万円を十倍に増やすつもりだと豪語。独立後は2億円を元手に、さらに大きな投資をもくろんでいるのでしょう」(週刊誌記者)
自身も経営者である浩太にとって、悠人の話は地に足が付いていないと感じられたことだろう。だが、物語の舞台である2004年当時はすでにインターネットを利用した株式投資が広まっており、一般のサラリーマンや自営業者も次々と参入。まだスマホはなかったものの、パソコンの画面とニラめっこしながら株価の上下に一喜一憂する姿が日本中で見られたものだ。
2006年1月には「ライブドアショック」で数多くの個人投資家が大きな損失を被ったものの、それは裏を返せば一般層にも株式投資が広まっていた証拠。なにより悠人は自らの才覚で2000万円を稼ぎ出しており、投資家としての実力に自信を持っていたに違いないだろう。
ただ、それほど株式投資にハマっているのであれば、就職などせずデイトレーダーになればよさそうなもの。それをなぜ悠人はよりによって電機メーカーという、ものづくりの会社への就職を決めたのだろうか。
「そこには彼なりの計算が見え隠れします。悠人が内定した『IMORI電機』ですが、その社名を見ればソニーをイメージした会社であることは明らか。ソニーの創業者である井深大氏と盛田昭夫氏の名前を合わせたものですからね。そのソニーは電機メーカーとしていち早く金融分野に進出しており、2004年には傘下の生保、損保、銀行を統括する金融持ち株会社のソニーフィナンシャルホールディングスを設立。メーカーと金融の両方を手掛ける、世界的にも稀有な企業となっていたのです」(週刊誌記者)
個人投資家を目指す悠人は、会社勤めをすることで社会人経験を積み、投資の腕を磨こうとしていたのだろう。その会社選びに際して彼が選んだのは、メーカーでありながら金融も手掛けていたソニー(IMORI電機)だった。ここなら事業会社の仕組みも学ぶことができ、金融分野の専門知識も身に付くと考えたのではないだろうか。
視聴者からは、悠人が入社3年後に独立するやいなや、2008年9月に勃発した「リーマンショック」に襲われ、一文無しになる恐れを指摘する声もあがっている。
果たして悠人は投資の世界で舞いあがることができるのか、それともあえなく墜落してしまうのか。ともあれ父親が経営する工場や、飛行機への夢を追い求める妹の舞に、迷惑が掛からないことを祈るばかりだ。