このミスはさすがに教官としても看過できなかったのだろう。
12月6日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第47回では、ヒロインの岩倉舞(福原遥)がパイロットを目指して通う航空学校にて、プリソロチェック(中間審査)を実施。舞の同期全18名のうち、水島学生(佐野弘樹)だけが不合格となってしまった。
航空学校での不合格は、退学を意味する。大勢の人の命を預かって飛ぶパイロットという職務上、能力のない学生に免許を与えることはできないからだ。
ただ舞いわく、水島は「着陸なんて私より全然上手ですし」とのこと。どうやら操縦の技術は悪くないらしいが、それでは水島はなぜプリソロチェックで不合格となってしまったのか。
「彼は管制塔からの指示を聞き取れないまま『ラジャー』(了解)と返答し、しまいには指示に反した行動を取ってしまいました。管制塔は『JA01TC make circle before base』(旋回飛行して待機せよ)を指示しましたが、水島は旋回飛行することなくそのまま着陸態勢に入ろうとしていたのです。これでは最悪、航空事故が発生する恐れがあると認められる『重大インシデント』に繋がっていた可能性すらあります」(飛行機に詳しいトラベルライター)
舞や水島がフライト課程を学んでいる帯広空港には、旅客機の定期便だけでも1日あたり14便ほどの離発着がある。航空学校生は有視界飛行で飛んでいるため訓練は明るい時間に限られるが、それでも10便ほどの離発着があり、その合間を縫って訓練飛行を行っている形だ。
管制塔が水島に対して待機要請したのは、訓練の一環だったかもしれない一方で、実際に旅客機の発着と被っていた可能性も否定できない。なにしろ18人の学生が飛行訓練するということは、訓練機だけでも36回もの離発着があるわけで、旅客機とバッティングしないよう管制塔では綿密な調整を行っているのである。
「今回は右旋回して着陸態勢に入ろうとする水島の操縦に、大河内教官(吉川晃司)がオーバーライド。左旋回の操縦をしながら『待機の要請だ。聞こえなかったのか?』とたしなめました。これがプリソロチェックに合格すると、次は学生の単独飛行となるため、助けてくれる同乗者はいません。それゆえ水島に単独飛行させようものなら管制塔の指示を無視して着陸態勢に入ってしまい、旅客機の離発着を妨げる重大インシデントに発展していた恐れもありえたのです」(前出・トラベルライター)
これが自動車教習所であれば、教習生が赤信号を見落としたりした場合、助手席の教官が補助ブレーキを踏んで車を止めることができる。
しかし航空学校のフライト課程では単独飛行(ソロフライト)も必須とされるため、管制官の指示を聞き落とすような学生は失格にするほかないのも当然だろう。
「なお本作を見ていて歯がゆいのは、管制塔からの指示が画面に示されないこと。字幕機能をオンにすれば英語の指示も表示されますが、なにしろ専門用語のオンパレードですから、ほとんどの視聴者にはちんぷんかんぷんでしょう。なぜ英語の指示とその訳を一緒に表示しないのか、いち視聴者としても疑問ですね」(前出・トラベルライター)
飛行機の操縦や英語に興味がない人は、なぜ水島が不合格になってしまったのかもイマイチ分かりづらかったかもしれない。ともあれ彼を一人で空に放ってしまったら、相当危険だったということは覚えておきたいところだろう。