主人公が女性だからジュリエット、というわけではないようだ。
放送中のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」では、航空学校に通うヒロインの岩倉舞(福原遥)が、教官の同乗なしで飛ぶソロフライトの課程に進級。帯広キャンパスでの卒業試験に向けて、奮闘する日々が描かれている。
フライト中のシーンでは、福原が本物の訓練機に乗って飛んでいる様子を撮影した映像も使用。同期の柏木学生を演じる目黒蓮によると「大きな滑走路を最前席で見ながら降りていく、その光景が本当にすごかった!」とのことで、視聴者もそのリアリティには圧倒されていることだろう。
そんな舞や柏木がフライトするとき、管制塔との無線交信で「ジュリエット・アルファ・ゼロワン・タンゴ・チャーリー」という呪文のような言葉を口にしているのはおなじみのシーンだ。だが作中ではたまに字幕が出るものの、それらの用語の具体的な説明がなく、何を言っているのかさっぱり分からないという視聴者も少なくない。
「航空無線では世界基準として、英語を使うことが定められています。航空法でも操縦士には航空英語能力証明の取得が求めており、舞たちがしゃべっているのは航空英語なのです。その用語はかなり独特ですが、少し覚えると、作中でどんな会話が交わされているかが理解でき、楽しみも増えるのではないでしょうか」(飛行機に詳しいトラベルライター)
航空英語ではアルファベットを単にエーやビーとは発音せず、フォネティックコードという通話規則を使うことが定められている。日本語でも「いろはのい」と表現するように、聞き間違いを防ぐためのルールだ。
日本国内で登録された航空機はすべて、登録記号(レジ)の最初2文字が「JA」になっている。舞が乗っている訓練機は「JA01TC」で、これは実際に航空大学校で使っている機材そのものだ。
この「JA」を航空英語では「ジェイ・エー」と読まず、「ジュリエット・アルファ」と、それぞれの頭文字に応じた単語に置き換えている。同様にTCもティー・シーではなく「タンゴ・チャーリー」となるのである。
「この航空英語は航空無線だけでなく、旅客機に乗務するCAも使っています。『11列のC席』であれば『11チャーリー』と呼んだりするものです。数字は普通にゼロ・ワンと言いますが、5は『v』の発音を避けてファイフになり、9はドイツ語の『nein』(ナインと発音、いいえの意味)との混同を避けるためにナイナーと呼ぶことになっています」(前出・トラベルライター)
ほかにも航空無線では、必要な情報をできるだけ簡潔に伝えるように工夫されている。着陸しようとしている舞に対して、管制塔からは「JA01TC first solo. Runway 17 clear to land. Wind 150 at 5.」との連絡が。これは舞が初めてのソロフライトを行っているJA01TCに対し、「滑走路17に着陸許可、風は方角150度から秒速5メートル」と伝えているものだ。
滑走路は01から36まで、二桁の数字を付けて呼ばれる。これは滑走路の方角を表しており、17なら「磁方位170度」(実際には165度から174度のあいだ)を意味している。ここで大事なのは、滑走路は両方向から着陸できるということ。帯広空港の場合、北側から着陸する場合はランウェイ17となり、反対側の南側からの着陸だとランウェイ35となる。
つまり管制塔が「ランウェイ17」への着陸許可を出したということは、北側から着陸せよの意味でもあり、反対側から着陸してはいけないのだ。
「アメリカで操縦士の免許を取得した友人がいるのですが、ソロフライト訓練で管制塔からの指示を聞き間違えてしまい、反対側から着陸したことあったとか。その時に彼は警察に拘留され、留置場に入れられたそうです。それくらい管制指示の聞き間違えは重大なミスであり、管制塔からの指示を理解できなかった水島学生(佐野弘樹)が退学(フェイル)したのも当然でしょう」(前出・ライター)
さすがに日本では留置場に入ることはないものの、間違った方向からの滑走路への誤進入は、航空事故につながりかねない重大インシデントとして航空事故調査官による調査の対象となる。舞たちにはそういった重大ミスを犯すことがないようにお願いしたいものだ。