父さん、倒産しちゃったよ。そんなダジャレは視聴者も聞きたくないところだろう。
12月15日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第55回では、航空学校に通っているヒロインの岩倉舞(福原遥)が久しぶりに里帰り。帯広キャンパスから宮崎本校へと課程が変わる合間に、東大阪の実家へと戻っていた。その帰省中に、なんとも不吉な場面が映し出されたという。
同期の柏木(目黒蓮)と一緒に帰省した舞に、父親の浩太(高橋克典)は警戒心を隠せない様子。だが神妙な顔つきで「真剣にお付き合いしたいと思っています」と宣言した柏木に、浩太は男気を感じたらしく、一緒に飲み明かしたあとはリビングで布団を並べて寝たのであった。
その浩太はねじ工場の株式会社IWAKURAを営んでおり、自動車部品にも業務を拡大するため、3億円を銀行から借り入れて新たな工場を建設。寝言で「新しい工場、もうすぐや…」とつぶやくほどに気合いが入っている様子で、2007年12月まで時計が進んだ終盤ではいよいよ新工場が稼働を始めていた。
「新工場は相当広いうえ、新しい機械を大量に導入。産業機械は1台で数千万円するものも珍しくなく、3億円を借りいれたのも納得です。従業員も大幅に増えて順調に業務を拡大している様子でしたが、ここで将来への不安を募らせるフラグが立ったのでした」(テレビ誌ライター)
浩太は社員たちに、自動車部品への業務拡大を提案してきた名神プレステックに営業に行くと説明。すると経理総務課長の古川(中村靖日)が「社長、ちゃんと名神さんの売り上げ動向も聞いてきてくださいね」と念押し。浩太は「分かってるって!」と笑顔で応じていたが、この問答こそがフラグだというのである。
その名神プレステックは11月24日放送の第39回にて初めて社名が出てきた会社。浩太と妻・めぐみ(永作博美)の会話によると「大きなメーカー」らしい。同社には浩太と中学で同級生だった竹やんなる人物がおり、彼から自動車部品への進出を打診されたという経緯だ。
「名神プレステックはおそらく自動車メーカーの下請け。『大きなメーカー』というからには、デンソーなどの一次下請け(Tier1)から仕事をもらっている二次下請け(Tier2)だと思われます。そしてIWAKURAは名神から仕事をもらう三次下請け(Tier3)にあたるわけですが、もし名神がコケてしまったら、IWAKURAにも経営危機が及ぶのは必定でしょう」(週刊誌記者)
なにより気になるのは新工場を立ち上げたのが2007年12月だということ。翌年9月には米リーマン・ブラザースが経営破綻し、金融危機の「リーマンショック」が世界中の経済を揺るがしたのは誰もが知る事実だ。
自動車業界では米GMが破綻したほか、日本でもトヨタを筆頭に多くの自動車メーカーが赤字に転落。これを機に下請け構造の見直しも行われ、それまで年間20社ほどだった倒産が2009年には約70社に急増していたのである。
「名神が倒産すれば、IWAKURAが連鎖倒産する可能性が大きいのは明らか。ここで経理総務課長が名神の売り上げ動向を気にしたということは、リーマンショック以前の時点ですでに名神の経営に問題があったのかもしれません。そうなるとリーマンショックが来た場合、多額の借入金を抱えるIWAKURAの経営がどうなるのかも、推して知るべしです」(前出・週刊誌記者)
今回のラストシーンでは航空学校の卒業を控えた舞が航空会社の就職面接を受けていた。しかし航空業界でもリーマンショックの影響は大きく、2010年1月には日本航空が2兆3000億円という巨額の負債を抱えて事実上の倒産。当時、パイロット候補として入社した新入社員たちは、別部署への転換を余儀なくされていた。
果たして舞は無事にパイロットになれるのか。そして株式会社IWAKURAはリーマンショックを生き延びられるのか。浩太が名神プレステックからどんな話を聞いてくるのか、視聴者も心配でならないことだろう。