感動シーンの裏側には、意外に深い意図が隠されていたのかもしれない。
1月20日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第76回には、約2か月ぶりに古書店「デラシネ」店主の八木巌(又吉直樹)が登場。視聴者から<全部持っていった>の声もあがるなど、話題をさらっていたようだ。
東大阪市のゆうゆうタウン商店街で古書店を営んでいた八木は、「得体の知れんでっかいものに呼ばれたんや」という理由から2005年にデラシネを閉店。同店の常連だった貴司(赤楚衛二)は心の拠り所を失うものの、八木から短歌を詠むように勧められたことをきっかけに、歌人への道を歩みだしていた。
そして5年が経ち、貴司はついに新聞の文壇コーナーに自分の短歌が掲載されることに。幼馴染でヒロインの舞(福原遥)と看護師の久留美(山下美月)から祝福されるなか、3人が語らっていたところにふと、八木が現れたのだった。
八木の登場に3人はもちろん、視聴者も大喜び。ここで八木は「心にすっと溶け込む歌、作れるようになったやんか」と貴司の短歌を褒めると、おもむろにキーホルダーを手渡し、「デラシネの鍵や。これからはお前に任せることにしたわ」と、古書店を貴司に託したのであった。
「この場面に視聴者からは《デラシネまだあったの!?》と驚きの声があがることに。鍵を渡したということは5年にもわたって店舗がそのまま残っていたことを意味します。しかし八木はデラシネを閉店して流浪の旅に出ていたはず。その間、店の家賃はどうしていたのか。謎は深まるばかりです」(テレビ誌ライター)
デラシネは間口が2間ほどで、奥行きは4間ほどのごく狭い店舗。奥には台所や小ぶりな居間があるほか、狭いながらも庭もあり、八木はここで生活していたのだろう。モルタル塗りの壁はいかにも昭和の建物といった雰囲気で、東大阪の相場ならおそらく家賃は月5万円程度だろうか。
とはいえ年間60万円、5年なら300万円もの家賃を無駄にするのもおかしな話。そう考えるとデラシネは、八木が所有する物件だった可能性が高い。そもそも彼は働かずとも食うには困らない程度の資産を持っていたのかもしれない。
「デラシネの在庫には古臭い百科事典や文学全集が多く、古書店で売れ筋の小説は段ボールに無造作につっこまれたまま。この品ぞろえでは独り身の八木でも生活できるほどの売り上げがあるとは思えません。そう考えると八木には、自分の好きな古書だけを扱いながら生活できるだけの余裕があったはず。おそらく店舗は自分のもので、建物の上階が貸しアパートになっているなど生活費を稼げる副業もあったのではないでしょうか」(前出・テレビ誌ライター)
ここで見逃せないのが、第76回の本編終了後に映し出された次週予告だ。デラシネの居間で舞と思われる女性と貴司が向かい合うなか、その背後では男の子が工作かなにかに打ち込んでいたのである。
第76回には五島で親しくなっていた朝陽(又野暁仁)も登場していたが、デラシネの少年とはずいぶん体格が違う様子。それに朝陽は東京出身だから、東大阪のデラシネにいるのは不自然だ。
「小学生だった貴司が八木に居場所を提供してもらっていたように、今度は貴司が子どもたちを店に上げているのでしょう。八木としてはデラシネを子供たちの拠り所にし続けたい想いから、貴司に店を託したのではないでしょうか。放浪中には信頼できる人物に店を任せたいもの。小3の時から人となりを知る貴司はピッタリの存在でしょうね」(前出・テレビ誌ライター)
貴司が歌人としての第一歩を踏み出していなかったら、八木がデラシネを託すことはなかったのかもしれない。貴司の短歌が新聞に掲載されたことで八木は後継者を見つけることができ、貴司は新たな居場所を見つけられたのではないだろうか。