【鎌倉殿の13人】江口のりこの出番が史実と違う?あえての脚色にも納得できる理由とは

 2月20日に放送されたNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に、「亀の前」(作中では亀)を演じる江口のりこが初登場。わずかセリフ3つだけにも関わらず存在感を発揮し、視聴者の関心を呼んでいる。

 今回の第7話では、安房(現在の千葉県南部)に逃れた源頼朝(大泉洋)が、坂東武者の有力者を味方につけていく様子が描かれた。その途中で頼朝は、逗留する屋敷で偶然見かけた漁師の妻・亀を見初め、一夜を共にすることに。するとそこに当の漁師が「亀はどこだあ!」と殴りこんできたのだった。

 その時、平家方の命を受けた長狭常伴が頼朝の寝込みを襲おうとしていたが、漁師たちの襲撃から隠れていた頼朝は窮地を逃れることに。結果的に亀の前に手を出した頼朝の女好きが、自らの命を救うことになっていたのである。

「ひっそりと隠れている頼朝のもとを訪れた三浦義村(山本耕史)は『敵の大将を討ち取ってまいります』と報告。すると一緒に隠れていた亀の前は『だったらついでにウチの人も討ち取って』と懇願し、江口の演技が引き立つ場面となっていました。もちろんこのセリフはドラマでの創作ですが、そもそも亀の前と安房で知り合ったこと自体が、史実には反しているのです」(歴史に詳しいライター)

 亀の前はれっきとした実在人物で、頼朝の妾であったことも事実とされている。だが亀の前は頼朝が伊豆で流罪に遭っていたころからの妾であり、安房に住む漁師の嫁という設定はドラマならでの創作だ。

 後年には嫉妬心を燃やした北条政子(小池栄子)の命により、身を寄せていた屋敷が打ち壊される羽目に遭う亀の前。そんな彼女をなぜ「鎌倉殿の13人」ではあえて、安房で出会ったことにしているのだろうか。

のちには妊娠中に頼朝と亀の前が通じていたことを知り、政子が怒り狂うことに。トップ画像ともに©NHK

「源頼朝を描いた作品は数多くあれど、伊豆で北条家に身を寄せるところから始まる例は聞いたことがありません。その理由は本作の主人公が頼朝ではなく、のちに鎌倉幕府を支えることになる北条義時(小栗旬)だからです。それゆえ本作では頼朝の流人生活をほぼ描いていないのですが、亀の前は流人当時からの妾であり、実は妻の政子よりも先に出会っていました。しかし史実通りにしてしまうと、今度はドラマの内容に大きく差し障ってしまうことになります」(前出・ライター)

 伊豆で流人生活を送っていた頼朝はまず、伊藤祐親のもとに身柄を預けられていた。だが祐親が京に出仕している間、祐親の娘である八重(新垣結衣)と契りを交わし、最初の妻としている。

 その後、祐親により強制的に別れさせられると、今度は北条家に匿われることになり、北条時政の長女である政子と結婚。ドラマでは八重と政子が頼朝を巡って対峙する場面もひとつのハイライトとなっていた。

「そんな八重や政子を描くにあたり、妾である亀の前はどうしても余計な存在に。平安末期には正妻を迎えつつ、陰では妾と遊んでいることは少しも珍しくありませんでしたが、それをドラマにも盛り込んでしまうと人間関係が複雑になりすぎますし、物語を進める際にはノイズにもなりかねません。ただ頼朝と政子の今後を描く際に、亀の前の存在は埋もれさせたくないところ。そこで苦肉の策として《安房の漁師の嫁》とすることで、亀の前が登場するタイミングを都合よく遅らせたのではないでしょうか」(前出・ライター)

 いずれにせよ今後、政子と亀の前のさや当ても見ることができるはず。ドラマ好きとしてはぜひ、小池栄子と江口のりこのにらみ合いに期待したいものだ。