このまま二人の関係は終わってしまうのだろうか。視聴者も固唾を飲んでその場面を見守っていたことだろう。
3月8日放送のNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」第89話では、大部屋俳優の五十嵐文四郎(本郷奏多)が、恋人でヒロインの大月ひなた(川栄李奈)に別れを切り出す場面が描かれた。
家族の反対を振り切って東京の実家を飛び出し、条映京都撮影所で時代劇俳優を目指していた五十嵐。しかし10年以上の歳月が経つも未だに大部屋俳優から脱することができず、蕎麦屋で“破天荒将軍”こと人気時代劇俳優の星川凛太朗(徳重聡)に「全員死んでんのに誰に向かって言ってんのあのセリフ?」などと、酔った勢いで絡んでしまう。
しかもあろうことか、星川の新妻で女優の美咲すみれ(安達祐実)を「二流の女優」呼ばわりする始末。そんな狼藉の結果、翌日に監督から呼び出された五十嵐は、「この先1年、『破天荒将軍』には出さん」との沙汰を言い渡されたのであった。
「条映の看板時代劇である『破天荒将軍』から出禁を食らったことで、時代劇にこだわる五十嵐の俳優人生は終わったも同然。あとは映画村で侍に扮したり、お化け屋敷で落ち武者に扮するといった仕事くらいしか残っていないでしょう。おそらくこの時点でもう、役者をあきらめて東京に帰ることを決意していたはずです」(テレビ誌ライター)
撮影所の休憩室で恋人のひなたに向き合い、「俺、役者辞めるよ」と告白した五十嵐。父親が会社を経営しており、一番上の兄が副社長を務めていることから、そこで働くという。文四郎という名前からして四男の可能性もあり、それが家を飛び出して時代劇俳優を目指せた理由だったかもしれないが、結局は実家に舞い戻ることを選んだのである。
そんな文四郎に「文ちゃんが納得できるまで待ってる」と、当初からの想いをあらためて伝えるひなた。文四郎が「ひなたと一緒にいることが俺にとっての(幸せ)」と告げると、食い気味に「私を言い訳に使わんといて。夢から逃げる言い訳に。文ちゃんの夢は私の夢や」と言い切るのであった。しかし、その期待を背負いきれない文四郎は、もう一緒にはいられないとの言葉を口にし、「もう傷つけたくない。傷つきたくない」と、ひなたを突き放したのだった。
「視聴者はそんな文四郎の態度に怒りを覚えつつも、祖母の安子(上白石萌音)や母親のるい(深津絵里)も、一度は結婚相手から別れを告げられていた経緯を思い返したことでしょう。るいに至っては、自分の愛情すらも負担に感じた錠一郎(オダギリジョー)が海に入って自死しようとしていたところを『私がジョーさんを守る』と救い出していました。それゆえ今回、ひなたを突き放した文四郎に錠一郎の姿を重ね合わせた視聴者は、この破局を乗り越えてひなたと文四郎が結婚することを期待していそうです」(前出・テレビ誌ライター)
そんな期待の一方で、視聴者のなかにはひなたがこのまま文四郎と破局してしまうと危惧する向きもあるという。それは母子三世代を描く本作において戦前、戦後、そして平成へと時代が移り変わったことに理由があるというのだ。
「祖母の安子は夫の稔から請われる形で結婚。そして母親のるいは自らの決意で錠一郎との結婚に漕ぎつけました。それは戦前と戦後で恋愛や結婚の形が変わったことを示していたように思えます。そうなると年号が平成に移り変わったひなたの時代には、8年付き合った相手とあっさり別れるという選択肢が提示されても不思議ではありません。文四郎は『ひなたの明るさがひなたの放つ光が、俺にはまぶしすぎるんだ』と語っていましたが、たしかに太陽のように明るいひなたには、嵐のようにどんよりとした五十嵐はそもそも似合っていなかったのではないでしょうか」(前出・テレビ誌ライター)
この回で錠一郎は、近所の「荒物屋 あかにし」にて、2年前から売れ残っているというCDラジカセを発見。店主の母親から「安ぅすしきまっせ」とセールスされていた。果たしてそのCDラジカセは五十嵐の象徴なのか、それともひなたを象徴しているのか。ひなたなら相手が五十嵐でなくても、幸せな結婚生活を送れるに違いなさそうだ。