設定の甘さはどうやら、リメイク作品ならではの弱点だったようだ。
8月11日放送のドラマ「六本木クラス」(テレビ朝日系)第6話では、居酒屋「二代目みやべ」を経営する主人公の宮部新(竹内涼真)が、人生の敵とみなす長屋ホールディングスの長屋茂会長(香川照之)と対峙。「あなたが罪を償い、土下座することです」と啖呵を切る場面がクライマックスとなった。
その長屋ホールディングスは、茂が共同経営者と一緒に立ち上げた一軒の小さな店からスタートし、いまや日本最大の外食企業へと成長。豊富な資金力を武器に、二代目みやべが入居する東京・六本木のビルを買収し、取り壊しを理由に追い出すという強引な手法で新にゆさぶりをかけていた。
その一方で新は、父親が交通事故で亡くなった際の保険金を元手に、ファンドマネージャーとなった高校の同級生に資金運用を依頼。いまや8億円の手元資金を持つまでに至り、それで長屋の株式を1%近く入手していたのである。
「長屋の筆頭株主は約41%を握る茂ですが、第2位は共同創業者の娘で専務取締役の相川京子(稲森いずみ/トップ画像)で、約19%を保有しています。現状では会長派が合計48%に対し、相川専務派は36%を握っており、相川派では少しでも味方を増やしたいところ。いまや第12位株主に躍進した新と組んで、会長の追い落としを図るのも当然でしょう」(週刊誌記者)
現在のところ「その他」が16%となっており、ここを取り込むことができれば専務派は逆転が可能。52%を握ることができれば株主総会で会長(代表取締役)の解任動議を提案し、過半数の決議で成功できる計算だ。
果たして株の奪い合いはどうなるのか。会長派は茂と息子の龍河(早乙女太一)の二人で44%を保有しており、他の会長派はわずか4%しか保持していないのが現実。どうやら会長側についている大株主は少ないようで、専務派が逆転できる可能性は小さくないかもしれない。
だが、そういった細かい株式保有率などを作中で示したことにより、本作の設定に現実にそぐわない矛盾点が生じているという。それは「長屋が外食産業のトップ」という、本作の根幹ともいえる重要な部分だというのだ。
「新の保有株と金額から計算すると、長屋ホールディングスの株価は約1538円。そこに発行済み株式数の約4600万株を掛けると、時価総額はわずか707億円程度に過ぎない計算になります。前回の第5話で相川専務は『長屋の株価総額は1000億を超える』と発言しており、そちらの数字を採用するにしても、その規模では日本国内の外食産業で14位相当にしかなりません。トップの日本マクドナルドホールディングスは6000億円を超えており、牛丼の吉野家やカレーの壱番屋といったおなじみのチェーンでは1500億円程度。長屋は時価総額だとサイゼリアや王将にも及ばない存在なのです」(前出・週刊誌記者)
作中の2018年から現在までに東証の時価総額合計は1割ほど増えているが、それを考慮しても長屋が外食産業でベストテンにも顔を出せない規模であることに変わりはない。もちろんそれでも大企業に変わりはないものの、やはり「外食産業トップ」だからこそ、警察にも顔が利くというものではないだろうか。
ただ長屋の規模をリアルに「日本最大」にしてしまうと、時価総額6000億円超えの日本マクドナルドや、4000億円越えのゼンショーに数字を合わせる必要がある。そうなると新が1%弱の株式を買い占めるためには40億円ほどの資金が必要となり、さすがに話が無理すぎるというもの。
しかし本家の「梨泰院クラス」に話を合わせるためには、どうしても新に1%弱の株式を買わせる必要があり、物語としてリアリティを失わないギリギリの線が「8億円分の株を購入」だったのだろう。こんなところにも、海外ドラマを日本でリメイクすることの難しさが表れていたようだ。