そう、その通りなんだよ! アイドルを推した経験がある視聴者は、心の中でそう叫んでいたことだろう。
ドラマ「推しが武道館いってくれたら死ぬ」(ABCテレビ/テレビ朝日系)の第3話が10月22日深夜に放送され、主人公で熱烈なアイドルヲタクのえりぴよ(松村沙友里)が発するセリフに、ヲタクたちがビビッドに反応していたようだ。
本作は岡山を舞台に、地下アイドルグループ「ChamJam」の市井舞菜(伊礼姫奈)にとって唯一のファンであるえりぴよが、全身全霊をかけて舞菜を応援する姿を描く物語。乃木坂46の人気メンバーだった松村が、アイドルを応援する側に立場を替えているところが見どころのひとつだ。
第3話では冒頭、えりぴよがChamJamのライブ会場を間違えるという大失敗。ヲタ友のくまさ(ジャンボたかお)と共に移動のバスを待つも、待ちきれなくなったえりぴよは吉備中央町にあるきびプラザから、隣町の高梁市にあるポルカ高梁まで、18キロもの道のりを走って行ったのである。
「ライブ会場を間違えてしまうのはアイドル業界のあるある話。お台場にある青海駅と、はるかに西にある青梅駅を間違えるのはもはや風物詩と言えるトラブルで、ライブの順番を急きょ替えてもらったアイドルは何組もいます。それはドルヲタのほうも一緒で、千葉の幕張メッセと東京ビッグサイトを間違えるのはよくあるパターン。少し前だとお台場にある『Zepp DiverCity(TOKYO)』と『Zepp Tokyo』(今年の元旦に閉館)を間違えてしまい、汗だくになって走っていった経験を持つ人も多いことでしょう」(アイドル誌ライター)
ほかにも開場と開演の時間を間違えたり、昼の部と夜の部を取り違えるのもよくある話。今回のえりぴよのように、今週と来週のスケジュールを入れ違えて覚えているケースも珍しくない。そのせいで握手会を逃してしまい、せっかくの特典券をパーにしてしまったドルヲタも少なくないはずだ。
第3話では正しい会場に走っていくえりぴよに巨漢のくまさが追いつけなくなり、「もう無理です。そんなに急がなくても、特典会には間に合いますから」と弱音を吐くことに。するとえりぴよから名言が飛び出したのである。
「えりぴよは『金持ちの道楽でドルヲタやってんじゃねえんだぞ!』とくまさを一喝。舞菜を一瞬たりとも見逃したくないという言葉は、多くのドルヲタ視聴者の心に染み入ったことでしょう。その思いは松村を乃木坂46在籍当時から追いかけてきたファンにはとくに刺さるはず。いずれは卒業することを運命づけられているアイドルの分野では『推しは推せるときに推せ』という格言が知られています。松村が女優として活躍する姿に目を細めるファンも、心の奥底には《乃木坂にいるうちにもっと推しておけばよかった!》という想いが去来したに違いありません」(前出・アイドル誌ライター)
その意味では本ドラマにおいて、熱烈なドルヲタであるえりぴよをアイドル経験のない女優ではなく、ほかでもないトップアイドルだった松村に演じさせているのは大正解だと言えるのではないだろうか。松村のファンならば、その姿をぜひ目に焼き付けるべきだろう。
ちなみに原作マンガ(著:平尾アウリ、徳間書店刊)のえりぴよは、舞菜を推すために全財産を投げうち、服まで売ってしまったのでいつも高校当時のジャージを着ているという設定だ。ドラマでもその姿を完全再現しており、そんな素っ頓狂な姿が似合うのもまた、いかにも松村らしいと評するファンも多いことだろう。
「第3話ではほかにも、ドルヲタに刺さるセリフが続出。特典会で舞菜が他の女子高生と握手している姿を見て『私以外の誰かに舞菜が話しかけるの見るの、ヤだ!』と心で叫ぶ姿には、多くのドルヲタが共感していたことでしょう。そして舞菜への想いがなかなか通じないと思い込んでいるえりぴよは、ドルヲタ仲間のくまさに対して『相手が人間って怖いよね』とポツリ。それは感情や人格を備えた実在のアイドルを好きになったからこその、根源的な悩みなのです。逆に言えばその悩みこそが、アイドルを推す理由の一つなのかもしれません」(前出・アイドル誌ライター)
前回の第2話ではファンから欲しいものを挙げる際に、うっかり「短冊」と言ってしまった舞菜のために、えりぴよは大量の短冊を自作。スタッフの手違いで届いていなかったが、第3話の終盤でやっと舞菜の手に渡り、舞菜はえりぴよの好意を嬉しく受け止めていたのであった。
果たしてファンの想いがどれほどアイドルに届くのかは分からないものの、届くかどうかよりも、届けようとすること自体に意味がある。そんな想いと行動こそが、冒頭でえりぴよが叫んだ「金持ちの道楽でドルヲタやってんじゃねえんだぞ!」に結実するのかもしれない。