【舞いあがれ!】スワン号はなぜ墜落したのか?由良の証言やテストフライトに見る制作陣の熱いこだわり!

 制作陣のこだわりにはマニアも「完璧すぎる!」と舌を巻いていたようだ。

 10月28日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第20回では、浪花大学の人力飛行機サークル「なにわバードマン」が制作した「スワン号」がテストフライトに挑戦。2回生パイロットの由良冬子(吉谷彩子)による操縦で見事に進空したものの、やがて制御を失って墜落してしまい、左脚を骨折した由良は全治2カ月の重傷で入院することとなった。

 スワン号は「なにわの天才」の異名を持つ3回生の刈谷(高杉真宙)が、由良の体格に合わせて設計。パイロットの由良は過酷なトレーニングで体重減少と筋力アップを達成し、その小柄な体格は軽さを求められる人力飛行機のパイロットにピッタリの人材だ。

 テストフライト当日は薄曇りながら天候は安定しており、部員からも風は弱かったとの証言があった。それなのになぜスワン号は墜落してしまったのか。そこには航空マニアも納得の考証があったという。

「墜落の原因についてパイロットの由良は『突風に焦って操縦桿、強く引きすぎました』と説明していました。機体が左に傾いていったので右からの突風かと思った視聴者もいることでしょうが、由良の言う突風とは追い風のこと。飛行機は主翼に風を受けて揚力を得ることから、向かい風に向かって飛ぶ必要があります。そこに追い風方向の突風が吹くと、一瞬で揚力を失う『失速』状態に陥ることもあるのです。ここで由良が操縦を誤ったことからさらに不安定な状態になり、あとは横風や左右バランスの影響で機体が左に流されたのでしょう」(飛行機に詳しいトラベルライター)

 機体が失速した場合、回復策は操縦桿を前に押して“機首下げ”の姿勢を取ること。機首下げではそのまま落下していくようにも思えるが、その落下により速度が増加することから、揚力を回復することができる仕組みだ。

 しかし由良は「落ちる!」と思い、機体を浮かせようと反射的に操縦桿を引いてしまったのだろう。十分な速度がある状態なら、操縦桿を引くことで主翼の迎え角が増え、揚力の増した機体は上昇する。しかし失速状態でさらに迎え角を取ると、失速状態が悪化するだけなのである。

 セオリーとは逆の操作をしてしまった由良だが、本物のパイロットと違ってシミュレーターで訓練したこともなく、そもそもスワン号を飛ばすのもこれが初めて。いくら足腰を鍛えていても“操縦者”としては未経験も同然の彼女に、失速状態での機首下げ操作を期待するのは酷というものだろう。

「由良は反射的に操縦桿を引いた後、失速状態がさらに悪化したことを感じ取り、今度は慌てて機首下げの姿勢を取ったものと思われます。しかし人力飛行機は上下動の操作には敏感に反応する特性を持っており、彼女が思いっきり操縦桿を押したことで今度は前方につんのめるようなダイブ状態に陥ったのでしょう」(前出・トラベルライター)

 滑走路わきの草むらでは申し訳程度の車輪が機能せず、機体は前のめりに墜落。その衝撃で由良の左脚は、コックピットを覆う発泡スチロール製のフェアリングを突き破っていた。墜落直後の場面では機体から外に飛び出た左脚が映っており、どうやら地面に脚が刺さる形で骨折したのだろう。

人力飛行機の撮影では大阪公立大学「堺・風車の会」が全面協力。本物のなにわバードマンたちだ。トップ画像ともに©NHK

 由良にとっても、なにわバードマンにとってもなんとも気の毒な墜落事故。その一方、これらの場面で飛行機マニアには感心と納得の気持ちが沸き起こっていたようだ。

「本作では人力飛行機の繊細な操縦特性や、事故の原因を完璧に再現。なにより本物の人力飛行機を使ってのテストフライトには鳥肌が立ちました。滑走し始めると揚力を得た主翼が上に向かってしなり、補助していた部員たちが追いつけなくなったスピードでゆっくりと浮上。人力飛行機は時速20km程度で浮上できるように設計されており、そのスピード感が完全に再現されていたのです」(前出・トラベルライター)

 この「舞い上がれ!」では、ヒロインの岩倉舞(福原遥)の実家であるねじ工場のシーンを、東大阪市にある本物の工場を借りて撮影。舞が通う浪花大学のシーンでは大阪公立大学(旧・大阪府立大学)が撮影協力している。テストフライトのシーンは南紀白浜空港で撮影されていたようで、これらのロケ地選定が物語のリアリティを担保しているようだ。

 そして人力飛行機でも専門家の協力を得て、実物の機体を使用。作中で映し出された設計図も本物を流用しており、それを基にNHKの制作チームが制作途中の機体などを作ったという。そういった制作側の努力が、視聴者にビビッドに伝わっていることは間違いないだろう。