【舞い上がれ!】刈谷が舞に5キロ減量を指示、そこには「優しさ」と「決意」が隠されていた!

 そんなん絶対無理やん! 誰しもがその厳しい目標に驚いていたようだ。

 11月1日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第22回では、ヒロインの岩倉舞(福原遥)に人力飛行機のパイロットを務めるための目標が与えられた。その厳しさに視聴者が恐れおののいていたという。

 浪花大学の人力飛行機サークル「なにわバードマン」に入部した1回生の舞は、2回生パイロットの由良冬子(吉谷彩子)がテストフライトでの墜落事故により左脚を骨折したことから、代役のパイロットになることを決意。事故の責任を感じていた機体設計担当で3回生の刈谷(高杉真宙)にサークルの窮状を訴え、刈谷は引退を撤回することとなった。

 なにわバードマンに戻った刈谷は、舞のトレーニングメニューを立案。そこで舞に課せられたのは、現在49キロの体重を、2カ月後の記録飛行までに5キロ減の44キロに落とすことだったのである。

「44キロは正パイロットだった由良が目標としていた数値。人力飛行機ではパイロットの体重が違っていると機体全体の重心バランスも変わってしまうため、舞が体重を由良に揃えるのはマストの条件だと言えるでしょう。その一方で、舞に求められる身体能力は、由良の時よりも少し甘めに設定されていました」(飛行機に詳しいトラベルライター)

 終盤では舞に求められる数値を列挙した表が映し出された。そこには「FTP」「LT下限」「LT上限」「AT上限」「VO2max」といった数値が並んでいたが、なかでも分かりやすくて重要な指標が表の左端に示されていた「FTP」だ。

 これは「ファンクショナル・スレッショルド・パワー」の略で、ペダルを漕ぐパイロットが1時間維持し続けられる最大パワーのこと。単位はワットとなる。前回の第21回で舞が代役パイロットを志願した際、部長の鶴田(足立英)は舞にエアロバイクを漕がせながら「重いやろ? 負荷210ワットはスワン号の設計値や」と説明していた。その210ワットがすなわちパイロットに求められるFTPとなる。

 ここで改めて注目したいのが、刈谷が表で示したFTPの数値だ。そこには以下のような数字が並んでいた。

由良の目標 220ワット
由良の実際 205ワット
岩倉の現在 150ワット
岩倉の目標 190ワット

 正パイロットの由良はテストフライトの時点で、設計値の210ワットに近い数字を叩き出していた。それに対して舞は現状だと25%以上も設計値に足りないうえ、そもそもの目標値自体が設計値に達していないのである。しかしこれでは、スワン号を飛ばし続けることができないのではないだろうか?

「その数値にこそ機体の設計者である刈谷の優しさ、そして決意が込められているのではないでしょうか。機体設計上、マイナス5キロという過酷な減量を舞に課すのは不可避。しかし体重は落とせたとしても、体力まで由良と同じレベルに上げるのが不可能なのは明らかです。そこで刈谷は代役パイロットの舞でもペダルを漕ぎ続けられるように、スワン号の設計値を210ワットから190ワットまで低減するつもりに違いありません」(前出・トラベルライター)

舞からサークルの窮状や機体の設計変更について聞いた刈谷は、引退撤回を決意することに。トップ画像ともに©NHK

 人力飛行機でパイロットのFTPを下げることはすなわち、「人力」というエンジンがパワーダウンすることを意味している。機体設計者としては舞に、由良と同じパワーを出してもらうことが最も簡単な解決策だ。しかし5キロ減量という過酷な条件を課した以上、それ以上を舞に求めるのは無理というもの。あえてFTPを下げたのは、舞への優しさと言えるのかもしれない。

 その一方で、ただでさえギリギリのパワーで浮上する人力飛行機において、パイロットのFTPを下げて設計するのは至難の技。しかも今回は記録飛行に臨むのだから、性能面でもギリギリを攻めることが求められる。本番まで2カ月しかないなか、その設計変更はほとんど不可能な領域に違いない。

 それでも刈谷は、FTP190ワットという目標を舞に示していた。それは体力面で由良には及ばない舞であってもちゃんと飛ばせる機体を作るという、刈谷の決意が示された場面だったのではないだろうか。

「視聴者は舞に課された『5キロ減量』におののいていましたが、舞が感じるプレッシャーと同じくらい、刈谷にかかるプレッシャーも大きいはず。ただでさえ自分の設計ミスで由良を怪我させてしまったという責任感を抱くなか、自ら厳しい条件を課した刈谷の決意たるや、生半可なものでないことは明らかでしょう」(前出・トラベルライター)

 舞は今後、プロレーサーさながらの厳しいトレーニングを積んでいくことになる。その一方で刈谷は「なにわの天才」とうたわれた頭脳をフル回転して、舞の体力でも問題なく飛ばせる機体を作っていく構えだ。そんな二人の決意を、献身的に支えるなにわバードマンの部員たち。舞のトレーニングを支えていく由良を含め、11人の部員たちが見事に記録飛行を成功させる日が、視聴者にも今から待ち遠しいことだろう。