【舞いあがれ!】舞は着水する運命?機体デザインに示された「ラストフライト」の覚悟!

 本番に向けたデザインの美しさは、はかなさも示していたようだ。

 11月8日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第27回では、浪花大学の人力飛行機サークル「なにわバードマン」がいよいよ、スワン号による記録飛行に挑む場面が描かれた。その機体デザインに、残酷な運命が表れていたという。

 2004年8月31日に琵琶湖で行われた記録飛行。スワン号では女性パイロットによる飛行距離の世界記録である15.44キロを更新すべく、機体設計をヒロインでパイロットの岩倉舞(福原遥)の体格と脚力に最適化。プロペラの取り付け角度も舞の出力(180ワット)に合わせて変更していた。

 そして臨んだ記録飛行。琵琶湖畔で発進準備を整えたスワン号は、2週間前のテストフライトとはすいぶんと装いが異なっていたのである。

「テストフライト時には何のデザインも施されていませんでしたが、今回は胴体左側に『浪花大学』の学校名とロゴマークが。そしてコックピット窓のすぐ後ろ側には機体名の『Swan』という文字と、サークル名『なにわバードマン』のロゴも施されていました。しかも『Swan』の文字はハメ込み式になっているコックピット扉をふさぐように貼られていたのです」(テレビ誌ライター)

 テストフライトの場合、着陸したらパイロットが降機し、機体は点検の上で再使用される。そのため扉は取り外しを考慮する必要があるのに対し、今回の記録飛行は一回こっきりのぶっつけ本番。パイロットの舞が降りる時には扉そのものを壊せばいいので、取り外せるようにしておく必要はないのである。

 そんなスワン号の外観で、もう一つの大きな違いはカラーリングだ。テストフライトでは全体的に緑色のテープが貼られていたことを覚えている視聴者も多いことだろう。それに対して今回の記録飛行では、薄黄色のテープで機体全体が覆われており、さらにはブルーの横線も施されていた。

テストフライト時には緑色のテープで覆われていたスワン号。いかにも「仮組み」といった感じだ。トップ画像ともに©NHK

 ブルーの横線はおそらく、旅客機でも採用されている「チートライン」を意識したものだろう。旅客機では機体をスマートに見せる効果があるのに対し、スワン号の場合は青い塗装で空をイメージさせることに加えて、白一色だと飛行中に下から見づらくなるため、機体が水平になっているかどうかを外部から観察しやすくする効果もあるのかもしれない。

 それに加えて、機体を覆うテープの色が変更されたことにも、重大な意味が示されているというのである。

 テストフライト時に使っていた緑色のテープはおそらく「養生テープ」だ。引っ越し作業などでよく使われており、剥がしやすくて跡も残らないのがメリットとなる。テストフライト後はハメ込んだドアを取り外すほか、機体も再整備することから、養生テープが用途的にピッタリなのである。

「それに対して本番の記録飛行では、飛べるところまで飛ぶのが目的なので、最後は琵琶湖の湖上に着水するのが運命。機体は再利用されないので、胴体を強固に固定できる粘着テープを使用しているのでしょう。コックピットが壊れにくいほうが着水後も浮きやすくなり、パイロットの救助には最適。見方を変えれば本番での機体は、着水を前提にしたデザインを施されているわけです」(飛行機に詳しいトラベルライター)

 つまり、記録飛行で離陸した舞はもはや、琵琶湖に着水する覚悟を決めていたことになる。そしてスワン号は飛び立ったが最後、これがラストフライトとなる運命だ。そのはかなさもまた、一回限りの本番にすべてを懸ける人力飛行機の美しさなのかもしれない。